結局のところ、管理職を務めていればコミュニケーション能力が一番重要な気がします。
相手として、
・部下
・上司
・外部(クライアントやベンダーなど)
相手が誰であれ、相手に合ったコミュニケーションが重要です。
例えばメールなどのような文章を書く場面もそうですし、対面やリモートなり電話などの遠隔での対話であればトークスキルというか。
その意味でいうと、私の場合はコールセンター出身という事もあって、ある程度トークスキルに自信がありまして、その辺はコミュニケーションの中だけでなく文章が制作物である場面(資料の文章とか)でも評価いただけるのはありがたいことです。
トークスキルも、所謂一般的な日本語の言い回しという意味では正しい文法とか、そういう作法的な意味でのスキルも含むのですが、相手にささるのはキャッチフレーズのような、要は「うまい事言うな!」と思われる言い回しになります。
こういうのはトレーニングもそうですし、やはり色んな本や映像(映画、TV、アニメなど)を読んだり観たりする事で養われるものというのが、私の持論です。
□今回のポイント
さて、歴史もそういう意味で結構参考になるものが多くあるものでして、「三國志」を例にしてみましょう。
今回の先生は、魏に仕えた「賈詡(字・文和) 147年~223年」です。
彼は魏、すなわち曹操の参謀として活躍しますが、それ以前には董卓⇒李確⇒張繡と、曹操から見ると敵対勢力に仕えていた人物です。
張繡が曹操に与するようになってそのまま曹操に仕える訳ですが、これが199年。
さて、飛んで210年代になると、主君である曹操も公⇒王と人臣を極めていきますし、勢力としても三国時代において最大勢力である魏の基盤はもう築いている状況です。
賈詡本人もいい年ですが、曹操もいい年です(当時は人生50年)。
それだけの勢力ですから、重要になってくるのが後継者問題です。
現代だとあまり重たくない問題だと思いますが、封建社会においては正に生きるか死ぬかの死活問題です。
では、ちょっと諸々整理しましょう。
【後継者問題に直面する主君に仕える配下の重たすぎる問題】
・後継者争いがあれば、勝った後継者を支持すれば出世する
・後継者争いに負けた後継者を支持すれば失脚か処刑される
・後継者争いで明確に支持を表明すれば対抗勢力に暗殺される恐れがある
・暗殺されなくても讒言によって失脚する恐れがある
・支持しなければどっちが勝っても負けても失脚か処刑される恐れがある
【曹操の後継者候補(問題)】
・三男:曹丕(字・子桓)…この時点で生存している兄弟では最年長=長子
・五男:曹植(字・子建)…「詩聖」と評される文人として優れた人物
※年功序列な時代ですから、本来順当であれば曹丕になるはずである。ただ、曹植は文化人(詩人)として優れており、曹操はその才能を大いに愛していた。
こんな重たい問題ですが、賈詡は曹操の晩年では重臣と言える状況でした。
なので、曹操が聞かれる訳ですね。
「後継者はどっちの方が良いかな」
と。
これは上記の問題に加え、回答しなければ主君の問い(=命令)を無視する事になるので、回答しなければ死ぬか失脚でしょう。
さて、ここでもうちょっと情報を整理します。
曹操は長い戦乱の中で生き残り、多くの勢力を滅ぼしてきましたが、そんな滅ぼされた勢力を簡単に。
【袁紹(字・本初)】
袁家は当時の中国(後漢王朝)においては名門中の名門で、袁紹はその本家の跡継ぎ。曹操とは幼馴染だが群雄割拠の時代には2大派閥の一角(もう一つは弟または従弟の袁術)で曹操もその派閥の一派だった。やがて栄枯盛衰の結果、袁紹と曹操が2大勢力になり官渡の戦いと倉亭の戦いで敗北。長男の袁譚と三男の袁尚とで後継者問題が勃発(容姿が良い袁尚を気に入っていた様子)、自身の後継者指名する事なく病死した事で袁譚は「俺は長男なんで」、袁尚は「親父は俺を気に入り後継者にしたがってた」と主張しそれぞれが後継者を名乗り分裂、結果曹操に個別撃破され袁家は滅亡。
【劉表(字・景升)】
荊州(現在の湖北省・湖南省)に割拠した。漢王朝の皇帝の血筋を持ち、戦乱が絶えない中原(当時の都である洛陽などを中心とした黄河と長江の間の地域。現代風に言えば首都圏)から離れた荊州で一勢力を築く。袁家を滅ぼした曹操のネクストターゲットになり、劉備らを抱え込み防衛に入るが病死。死後、長男・劉琦と次男・劉琮を巡って家臣が分裂。荊州に縁故が少ない劉琦より、荊州豪族の娘を妻に迎えた劉琮を地元豪族(劉表家臣)が支持、劉琦は江夏(荊州東端)に逃げ劉備と合流し独立、勢力が分断された事で抵抗は困難となり曹操に降伏し滅亡。
このように後継者問題から分裂し弱体した結果滅亡した勢力がある訳ですね。
さて、改めて曹操から「後継者はどっちが良い?」と聞かれた賈詡。
曹丕と答えれば曹丕派になり、後継者争いに敗れれば失脚か反勢力から命狙われますし、曹植と答えれば曹植派に見られ、同じく後継者争いに敗れれば失脚か反勢力から命狙われます。
かと言って答えなければ曹操という主君の質問を無視し、死ぬ。
『詰んだ』
と、私なら思う訳です。
そんな中での賈詡の回答がこちら。
『袁紹と劉表のことを考えていました』
これに曹操は大笑いし、曹丕を後継者に決めたと言われます。
これは曹丕とも曹植とも答えていないですが、袁紹・劉表共に後継者を自ら指名しない、ないしは曖昧にした結果で本人のみならず支持者らが勝手に分裂し弱体化し滅んだという顛末を、暗に伝えている訳です。
曹丕派・曹植派にならず、かつ曹操の問いに対し「年長者を立てるべし」という遠回しな回答です。
本質を突いた回答であり、それでいてどちらとも明言していない、私としては心の底から「上手い」と思う回答でした。
まぁ、現代でこんな場面は中々ないですし、ここまで上手い事言えるかはわかりません。
ただ、ポイントとしては、相手に刺さる事をどれだけ言えるか、だと思ってます。
それだけで相手(部下・上司・外部)の印象に残る訳ですから、自身の評価に繋がりますね。